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広島家庭裁判所 昭和30年(家)1139号 審判

申立人 小田美子(仮名)

事件本人 野村久子(仮名) 昭和一五年○○月○○日生

主文

本件申立はこれを却下する。

事実

申立人は、未成年者である事件本人のため後見人選任を申立てたので添付の戸籍謄本の記載により審理するに、事件本人久子は、昭和一五年○○月○○日父野村健一、毋美子の嫡出長女として出生したが、昭和二〇年○月○○日親権者である父健一が死亡したので毋美子が親権者となつたこと。美子は民法等の応急措置に関する法律下の昭和二十二年○月○○日広島市○○町○丁目○○○番地小田文吉と婚姻し同時に久子は、小田文吉を養父として養子縁組をしたことが認められる。民法等の応急措置に関する法律においては子に対する父毋の共同親権の制度が確立されたのであるが、このような制度の下において配偶者の一方の子を他の一方の養子とした場合は、実親と養親とをして共同して親権を行はせるのが共同親権制度の精神に適するものである。旧民法八六一条は、養子ハ縁組ニ因リテ養親ノ家ニ入ルことを定め、同法第八七七条は、子ハ其ノ家ニ在ル父ノ親権ニ服シ、父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ家ヲ去リタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル毋之ヲ行フ旨を定めているけれども前記法律の下にあつては、家に関する民法の規定は、適用なく、夫婦たる養父と実毋は子のために共同して親権を行うものと解するを相当とする。このように本件においては養父である文吉と実毋である美子が共同親権者であつたのであるが、昭和二七年○月○○日養父文吉と養子久子の離縁が行われたのであるから、親権は自ら実毋たる美子一人に帰し現に美子が親権者であり、美子が親権を失うべき何等の原因も認めることができない。従つて後見開始の原因もないので、本件申立は不適法とし家事審判法第九条により主文の通り審判する。

(家事審判官 大田英雄)

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